沖縄の食文化

日本においては7世紀以降、稲作を神聖視する一方で、肉食は穢れとみなされ、表向き禁忌とされた。しかし中国の影響からか沖縄では早くから肉料理が発達し、特に豚肉料理が伝統的に発達している。牛、馬、猪、鳥の肉を食べるが、祝いの席などで山羊の刺身、山羊汁、チーイリチーをふるまうことが多い、山羊の肉と血液を調理するチーイリチーは、沖縄ならではのものといえる。琉球料理には、遠い北海道産の昆布も古くから使われる。

沖縄料理は琉球料理とも呼ばれるが、この場合は琉球王朝時代の宮廷料理を指すことが多い。「琉球王国時代から連綿と続く沖縄の伝統的な『琉球料理』」は、2019年に日本遺産として認定された。

肉料理

沖縄で最も日常的に食される畜肉は豚肉である。沖縄本島では18世紀ごろから家庭でも飼われるようになったが、戦前までは、肉は滅多に口にできない貴重な蛋白源であり、豚は気温の低い冬、特に正月に向けて屠殺し、肉は塩漬け(スーチキ)にしたり何度も火を通しながら少しずつ大切に食べた。また、沖縄の食文化は中華料理の影響を受け発展した

ばら肉の角煮であるラフテーやあばら骨の部分を煮込んだソーキであるが、耳たぶの部分を食べるミミガー(耳皮)や、同様に頭部の皮を利用したチラガー(顔皮)なども有名である。

豚足の部分を、毛を処理してからじっくりと煮込んだ足ティビチ(テビチ) は、脂分が抜け出てコラーゲンが豊富に残っている為、肌の美容に良いとされている。また、内臓は中身と呼ばれ、イリチー(炒り付け)と呼ばれる炒め煮にされるほか、蒟蒻や昆布とともに澄まし汁に仕立てた中身汁と呼ばれる吸い物などになる。近年は、絶滅寸前だった小型の在来豚であるアグーの飼育が進められ、沖縄の高級ブランド豚肉となっており、外食店を中心に広まっている。

肉料理にあっては、ヒージャー(ヤギ)も特筆すべき家畜である。ヤギ肉料理の専門店が存在するほか、かつては祝い事の際などに振る舞われることが多く、現在でも農家では「自家用」にヤギを飼っている。

主な料理法は刺身と山羊汁であるが、いずれも独特のくさみが非常に強く、好き嫌いが分かれる食材であり、ショウガやフーチバー(ニシヨモギ)で臭みを消して食べる。

野菜料理

野菜類は油脂を用いた加熱調理が基本であり、野菜炒めに類する料理が多い。食堂のメニューで単に「おかず」と記載されていれば、ほとんどの場合野菜炒めに玉子焼きなどを載せたものが出てくる。沖縄独特のものとしては、ゴーヤー(ツルレイシ)、タマナー(玉菜、キャベツ)、マーミナー(豆菜、モヤシ)などを島豆腐と共に強火で炒めたチャンプルー、千切り状にしたデークニー(ダイコン)やパパヤー(パパイヤ)などにだし汁を加えて炒り付けたイリチー(炒り付け)、同じく細長く突いたチデークニー(黄大根、ニンジン)を鶏卵と共に炒めたシリシリー(摺り摺り)などが代表的である。

大根、にんじん、ごぼうなどの根菜類と三枚肉や豚足、昆布、こんにゃく、蒲鉾、豆腐などを炊き合わせた煮つけもポピュラーな料理で、多くの食堂で提供されている。

ナーベーラー(鍋洗い=ヘチマ)を食用にするのも特徴であり、豆腐などとともに味噌味の蒸し煮にするナーベーラーンブシー(蒸し)などの料理がある。

タロイモの一種であるターンム(田芋)も伝統的な食材であり、甘く煮たディンガク(田楽)や、豚肉や野菜と一緒に炒めながらペースト状にしたドゥルワカシー(泥沸かし)の材料として用いられる。ムラサキイモの芋くずで同様に作られたンムクジプットゥルーもある。またフーチバー(蓬葉=ニシヨモギ)は薬味として多用される。

煮物や汁の材料としてシブイ(白瓜=トウガン)やチブル(頭=ユウガオ)、モーイー(毛瓜)がよく使われる他、ダッチョウ(島らっきょう)、ンスナバー(フダンソウ)、シマナ(島菜=カラシナ)、ンジャナ(ニガナ)、ハンダマ(スイゼンジナ)、サクナ(ボタンボウフウ、別名長命草)、ハマホウレンソウ(ツルナ)、ニンブトゥカー(念仏鐘=スベリヒユ)、クァンソー(ワスレグサ)、イーチョウーバー(茴香葉=フェンネル)、アキノノゲシなども食用とされる。ウンチェー(ヨウサイ=空芯菜)、ウリズン(シカクマメ)、カンダバー(ヤエヤマカズラ)、マッコー(マコモダケ)、インミズナ(ミルスベリヒユ)、アロエ、オオタニワタリ、アダン、ヘゴなど、南国独特の食材も見られる。

豆腐・麩料理

前述のように炒め物のチャンプルーに使うしっかりした島豆腐がある一方で、おぼろ豆腐よりも軟らかい「ゆし(寄せ)豆腐」もよく食べられている。豆腐を紅麹と泡盛に漬け込んだ「豆腐よう」も沖縄名産として名高い。また、大豆ではなく、落花生を使った「ジーマーミ豆腐」(地豆豆腐)も風味豊かな郷土食である。

沖縄県では小麦の栽培はされていないが、小麦粉から作る麩を使った料理もポピュラーである。車麩に卵液を吸わせてから炒めた麩チャンプルーや麩いりちーは家庭の惣菜としてよく食べられている。長期間保存できる麩は台風の多い沖縄では重宝された。

魚介料理

沖縄県周辺で獲れる魚はカツオなど一部の例外を除いては、本土では見かけない亜熱帯独特のものが大半を占める。グルクン(タカサゴ)、ミーバイ(ハタ)、イラブチャー(アオブダイ)など一般に脂質が少なく淡白な魚が多いため、唐揚げやバター焼き(マーガリン風味の丸揚げ)など油を用いた料理や、野菜などと一緒に煮込んだ味噌汁などの料理法が主流である。ただし、食味の良いものや新鮮なものは刺身や素材の風味を生かして塩味で蒸し煮にしたマース煮(「マース」は沖縄の言葉で塩)などにも用いられる。アカジンミーバイ(スジアラ)、アカマチ(ハマダイ)、マクブ(シロクラベラ)は沖縄三大高級魚と呼ばれる。

汁物では干したイラブー(エラブウミヘビ)を煮込んで汁(イラブー汁)にしたものや、イカを墨ごと汁物にしたイカの墨汁(すみじる)、アバサー(ハリセンボン)汁などもある。

魚の加工食品としては、スク(アイゴの稚魚)を塩漬けにしたスクガラスや薩摩揚げの原型ともされるチキアギ、かまぼこなどがある。かまぼこは清明祭や旧盆の重詰めには欠かせず、本土のかまぼこよりも色のバリエーションが多い。ツナの缶詰は各家庭に常備してあり、ソーメンチャンプルーやヒラヤーチー、和え物などに使用される。

海藻・昆布料理

沖縄県では海草の利用が盛んで、スヌイ(酢海苔=モズク)は酢の物にし、アーサ(ヒトエグサ)は汁に入れるほか、天ぷらの具にしたりする。ヒジキも栽培されており、モーイ(イバラノリ)も地域によっては利用される。海ぶどうも土産物などとして珍重されている。また、クーブ(コンブ)を利用した料理が盛んで、だしに使うほか、締め昆布を煮物や炒め物にしたり、千切りにしてクーブイリチーと呼ばれるイリチーやクーブジューシーになどにする。沖縄県のコンブの消費量は全国でも富山県と一、二を争う多さである。沖縄県で昆布が生産されないのに消費量が多いのは、江戸時代、日本から清への輸出品として沖縄に運ばれた北海道産のコンブが用いられるようになったからだとも、北前船によって大阪に運ばれた昆布を薩摩の商人が沖縄の黒砂糖と取引したから だともされている。

沖縄県の「餅」は中国などと同様にもち粉を練って蒸したもののことを指し、一般的な蒸したもち米を搗いて作る粘りのある餅は稀である。餅は冠婚葬祭のお供えに欠かせないものであり、行事ごとに独特の餅が作られる。月桃の葉で包んだちまきに似たカーサムーチー、正月を祝う味噌味のナントゥー(年頭餅)、十五夜のお供えに使われるふちゃぎ(吹上餅)、屋敷御願に用いられるウチャヌク(御茶の子)、四十九日の法要に供えられる骨餅など、本土にはない種類の餅も多数存在する。

軽食

小麦粉を溶いてツナ缶やニラと混ぜ、薄焼きにしたヒラヤーチー(平焼)は軽食としてポピュラーである。また味噌や砂糖で甘みを加えたクレープ状のポーポーやちんびんはかつては宮廷料理や祭日の料理だったが、今日では子供のおやつとして知られる。

沖縄の天ぷらは衣が厚く、出汁や塩などで味付けされているため、天つゆは用いずそのままの状態で食べる。好みによりウスターソースを付けることもある。用いられる食材は魚、イカ、芋、野菜、もずくなどが代表的。惣菜として冷めた状態で食べることも多く、おやつや間食としてもよく食べられる。専門店が多数存在するほかパーラーや弁当屋、鮮魚店、食堂などで販売されている。また行事の際には仕出し屋で重詰めやオードブルとして販売される。

沖縄そば

沖縄そばは、中華麺に由来する製法の麺を使用した、沖縄県の郷土料理(沖縄料理)である。

沖縄県内では単に「そば」、あるいは方言で「すば」「うちなーすば」とも呼ばれる。和蕎麦とは異なり蕎麦粉は一切使われず小麦粉のみで作られ、かんすいまたは薪を燃やして作った灰汁を加えて打たれる。これを豚や鰹のだしで取ったスープで食べる。具はかまぼこに小口ネギ、豚の三枚肉などであるが、ソーキそばやティビチそば、アーサやフーチバーなどをトッピングするバリエーションもある。また、宮古諸島や八重山諸島にも独特のそばがあり、「宮古そば」「八重山そば」として親しまれている。なお調味料としては、明治以降に普及した「コーレーグス」(島唐辛子の泡盛漬け)が用いられることが多い。

発祥については諸説あるが、沖縄で小麦粉を原料とした麺料理が一般に知られるようになったのは明治後期以降のことであり、日本本土出身者が連れてきた中国人コックが那覇に開いた支那そば屋が、今日の沖縄そばの直接のルーツであると考えられている。街中にそば屋が増え、一般庶民が気軽に食べられるようになったのは大正に入ってからのことであるが、当初は豚のだしをベースにした醤油味のスープで、具材も豚肉とネギのみと、日本本土の支那そばと変わらないものであった。その後沖縄県民の味覚に合わせた改良が重ねられ、スープは現在のような薄めの色となり、ばら肉、沖縄かまぼこ、小ねぎを具材とし、薬味として紅しょうがやコーレーグスを用いるという沖縄そば独自のスタイルが形成されていったようである。

菓子

サーターアンダーギー(砂糖てんぷら)やちんすこう(金楚糕)といった独特の菓子も有名である。ちんすこうなどは琉球国時代の宮中ゆかりの菓子(琉球菓子)である[25]。どちらも中国や日本などから伝来した菓子の変形と考えられるが、固有の食文化として定着している。

慶事に用いるマチカジ(松風)、上巳の節句に用いるサングヮチグヮーシー(三月菓子)、タンナファクルー(玉那覇黒)、クンペン(光餅)、ちいるんこう(鶏卵糕)、花ボウルなど独自の焼菓子も存在する。また饅頭類も多く、山城饅頭・のー饅頭・天妃前饅頭などは那覇市の名物となっている。

特産物であるサトウキビから作られる黒糖も菓子として成立しており、ピーナッツなどを混ぜ込んだものもある。多くは板状のものを砕いた小片の状態で売られており、お茶請けとしてそのまま食べられる。

飲料

沖縄には独特の飲料も数多く存在する。日本最古の蒸留酒であり焼酎の元となった泡盛は「島酒」あるいは「シマー」と呼ばれ、安価で日常的な酒として県民に広く親しまれている。また県産ビールとして有名なオリオンビールは本土メーカーやアメリカ産を抑えて県内トップシェアを誇っている。

ソフトドリンク類ではさんぴん茶(香片茶)の消費量が非常に多い。またウッチン(鬱金=ウコン)を煎じたうっちん茶や、アメリカの影響で根付いたルートビアなど本土ではあまり親しみのない飲み物もある。また、、アイスティーもよく飲まれる。食堂のやかんに入っている無料のお茶が紅茶(沖縄では「ティー」と英語で呼ぶ)であることも珍しくなく、輸入品の粉末紅茶もスーパーマーケットの棚に並んでいる。